聴覚障害者向け字幕

誰のせりふかを特定するために必要となる配慮

一般的に聴者が洋画の日本語字幕スーパーを見る場合は、音から得られる情報と視覚情報(映像と字幕)を合わせながら字幕の内容を理解しています。具体的には、聞こえてくる音声が男性の声か、女性の声か。また、その声の特徴から誰の声なのか。といった様々な情報を組み合わせながら、表示されている字幕が誰のせりふなのかを理解しているのです。

しかし、音からこのような情報を得ることは、聴こえない方にとっては難しいことです。そこで、聴覚障害者向け字幕では、誰(話者)のせりふかを特定できるような配慮を行っています。

メッセージを伝えるために必要となる配慮

内緒話しをする場面を想像してみてください。内緒話の声は、ささやくような小声ですね。逆に考えれば、登場人物の会話の声が小声の場合は、「内緒にしたい話」あるいは「周囲に聞かれたくない内容の話」など、声の大きさによって、登場人物の心情を演出しているといえます。

しかし、声の大きさを直接知ることが難しい聴こえない方にとっては、こうした声の大きさに含まれるメッセージは伝わりにくいといえます。聴覚障害者向け字幕には、こうした声の大きさに含まれるメッセージを伝える配慮も必要となってくるのです。

話の展開を理解するために必要となる配慮

洋画の日本語字幕スーパーには、せりふ以外の音は字幕表示されません。

たとえば、「隣の部屋からガラスが割れるような音がして、登場人物が「誰だ!」と叫びながら隣の部屋へ駆け込む」場面を想像してみてください。洋画の日本語字幕スーパーでは「誰だ!」の字幕表示だけで、話は伝わります。でも、このような字幕だけでは、聴こえない方にとっては、登場人物がなぜ突然「誰だ!」と叫んで隣の部屋に駆け込んだのか、理解するまでに時間がかかります。もしかしたら、最後までわからないままかも知れません。

そこで、聴覚障害者向け字幕では、聴者向けの字幕では必要としない音の字幕化についても配慮が必要となってくるのです。

せりふの抑揚、強弱などを伝えるために必要となる配慮

話し言葉は、その抑揚、強弱などによっても、様々なメッセージを伝達する機能をもっています。

例えば、大きな声で「こら」と叱る場合と、小さな声で「こら」と叱る場合では、メッセージは異なりますよね。また、「食べる」という同じせりふであっても、その抑揚によっては相手に答えを求めるメッセージにもなりますね。

聴者は、こうした抑揚、強弱などの耳から入る音の情報の助けを得ながら字幕を理解しているといえます。こうしたせりふの抑揚、強弱などに含まれる意味を、聴こえない方々に伝えるための配慮も大切なのです。

読みやすくするために必要となる配慮

映像を見ながら、そして、字幕も読みながら楽しんでいただくためには、字幕が瞬時に読み取れるような文字の配列や文字の大きさなどについても配慮が必要となってきます。

そのほか、聴覚障害者向け字幕は、音声言語(日本語)習得など補助教材とし使われる場合もあります。字幕の正確な表記、正しい表記に徹しなければならない点は洋画の日本語字幕スーパーも同じですが、音声言語(日本語)学習の補助教材としての使用も含め、「聴覚障害者向け字幕」には、字幕表記について視聴対象年齢に応じた教育漢字を使用するなど、より細心の注意と配慮が求められています。

「聴者向け字幕」と「聴覚障害者向け字幕」の大まかな相違点

効果音等の配慮抑揚等の配慮話者等の配慮
聴者向け字幕不要不要不要
聴覚障害者向け字幕必要必要必要
(例)・銃声・近づく足音・電話の呼出音・擬態音・etc.・~じゃない・食べる・こら・(内緒話)・etc.・誰の声?・画面外からの声・音・ナレーターの声・etc.
・音の聞こえない聴覚障害者にとって字幕は画面と同じ映像情報↓・同時に異なる映像情報を瞬時に理解できるように工夫が必要